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広島高等裁判所岡山支部 昭和47年(う)133号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人横田勉の控訴の趣意は記録編綴の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

論旨第一点について。

所論は、原判決は別表第一の昭和四六年一月一五日から同年二月一六日までの間の計二〇日間の無免許運転行為につき、各一日毎に一罪が成立するとして併合加重をしているが、本件は被告人が原判示栄友工業株式会社(以下栄友工業という。)との間に同社の砂利運搬を目的とする継続的請負契約を結び、その業務遂行のためという同一の意思ならびに目的のもとに原判示無免許運転を継続していたのであつて、その行為は犯意の単一性、行為の連続性、同一構成要件該当性、被害法益同一性という包括一罪の要件を具有しており、全体として無免許運転の一罪が成立するに過ぎないから、これを併合罪として加重処断したのは判決に影響を及ぼすこと明らかな法令適用の誤りである、というにある。

よつて検討すると、原判決挙示の関係証拠によれば、被告人は大型貨物自動車を無免許運転して、専ら栄友工業が販売した砂、砂利等を同社の得意先まで積載運送しその運賃を得ていたもので、同社に専属して継続的に運送を請負つていたと認められることは所論のとおりであるが、しかし、その実態を見ると、毎日の運行先はその当日栄友工業に出向いて始めて同社から指示され、時として全く用務のない日もあり、一日のうち数ケ所に運送すべき場合にあつてもその運送の先後順位はすべて同社の指示に従つていたことが認められること原判決説示のとおりであつて、かかる事実関係からすれば、毎日の各運行先ごとにそのつど無免許運転の一罪が成立するとか、あるいは、日を異にする運転行為につき全体として無免許運転の包括一罪が成立するとか解することはできず、むしろ毎日栄友工業の指示のもとに指定された運行先への無免許運転を開始し、当日予定された運送を終るまでの運転行為全体を一個の運転行為と認め、各一日毎に無免許運転の一罪が成立するものと解するのが相当である。これと同旨の原判決の法令の適用は正当であつて、論旨は理由がない。

論旨第二点について。

所論は、原判決が被告人を懲役六月および罰金一万円に処したのは不当に重いから破棄のうえ懲役刑については刑の執行を猶予されたい、というにある。

よつて、検討すると、被告人は昭和三六年から昭和四五年に至る間に速度違反、無免許運転等で罰金に処せられることが二七回あるほか、業務上過失傷害によつても数回処罰され、また無免許運送事業経営により罰金刑に処せられたことがあり、殊に昭和四五年三月二七日岡山地方裁判所において業務上過失傷害罪により懲役八月三年間刑執行猶予の判決を受け(同年四月一一日確定)ながら、その猶予期間中原判示第一ないし第四の如き無免許運転、無免許運送事業経営、積載違反をくりかえし、これら所為につき原審に起訴されたのちもさらに原判示第五、第六、第七のとおり自動車検査証の交付を受けておらず、かつ、保険契約未締結の普通乗用自動車を無免許運転しているのであつて、遵法精神が著しく欠けた交通法規違反の常習者と認められること等記録からうかがえる一切の情状に鑑みると、所論指摘の犯行の動機、家庭環境等被告人に有利な諸点を十分考慮してもなお原判決の量刑はまことにやむをえないところであつて、不当に重いとはいえない。論旨も理由がない。

よつて刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(藤原啓一郎 三宅卓一 谷口貞)

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